老健(介護老人保健施設)とは
まず老健どんな施設なのか簡単に紹介します。
老健の定義
老健の正式名称は介護老人保健施設です。
老健は介護保険法第8条第28項でこのように定義されています。
介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設。
引用:介護老人保健施設(参考資料)|厚生労働省
なんだか難しくてよく分からないよ
もう少しかみくだいて分かりやすく説明するね
老健の役割
老健は2000年4月から介護保険制度の下でサービスが開始されました。
老健は主に医療法人や社会福祉法人によって運営されています。
老健の役割は歩く・立ち上がりなどの基本動作だけでなく、生活機能向上を主目的としたリハビリテーションが展開されることです。
また、リハビリだけでなく、地域在宅医療や介護の中心としても機能しています。
そのため、老健はよく
- 医療・福祉
- 病院・在宅
それぞれの中間に位置する存在といわれています。
高齢者が暮らしやすい自宅生活を送るためにその橋渡し的な役割をする老健の重要性は今後さらに増していくでしょう。
老健勤務の理学療法士&作業療法士に大切なこと
老健で働く理学療法士・作業療法士にとって1番重要な責務は自宅退院をしたときにできる限り安心安全で快適な日常生活を送れるように支援するということです。
そのため、運動機能向上だけでなく、円滑な在宅復帰に向けた環境調整やADL指導も重要です。
下の論文でもいわれているように、ときには家族に対する支援も必要となります。
老健からの在宅復帰には利用者に対するADL支援とともに、家族介護者に対する教育的支援が重要な要因である。
引用:介護老人保健施設から在宅復帰するための要因|理学療法科学
理学療法士・作業療法士の老健現場
- 入所リハビリ
- 通所リハビリ
- 訪問リハビリ
理学療法士・作業療法士が老健で行うリハビリ現場はこの3つです。
入所リハビリ
介護老人保健施設に入所されている方に対してリハビリを行います。
自宅への退院を目指すために、機能改善だけでなく、ADL指導や家屋調整などの環境設定など包括的なケアをします。
退院後の生活をイメージして具体的な支援内容につなげる能力が必要になります。
通所リハビリ
可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、日常生活上の支援や、生活機能向上のためのリハビリを日帰りで行います。
スタッフがほとんどの利用者様を自宅まで送迎します。
地域包括ケアの推進により、最近は病院の入院日数が減っています。
そのため、退院後に継続的なリハビリを求める声が高まっていて通所リハビリの重要性は高いといえます。
訪問リハビリ
訪問リハビリは理学療法士・作業療法士が対象者の自宅に訪問してリハビリを行います。
リハビリ内容は身体機能の維持・向上だけではありません。
- トイレ動作
- 移乗動作
- 入浴動作
- 家事動作
- 外出練習など
このように日常生活に直結した活動や参加に向けての働きかけを行ないます。
自宅でリハビリを行うので、生活面に密着したリハビリを提供しやすいのが特徴です。
老健では施設に入所している方だけが対象ではなく、通所リハビリ・訪問リハビリなどもある
老健で働く理学療法士・作業療法士の1日
ぼくは現在、整形外科クリニックで働いていますが、施設内にデイケアが併設されています。
そのため、ぼくがリハビリをしているスペースのすぐ横でデイケアスタッフが仕事をされています。
今回、老健ではないですが、デイケアの仕事風景は毎日見ているので、その様子を紹介したいと思います。介護老人保健施設の通所リハビリをイメージしていただければと思います。
- 機能特化型のデイケア
- 利用時間は2時間
- 午前の部・午後の部の2回転/日
- 食事・入浴サービスはなし
- 理学療法士と作業療法士が1名ずつ
8:15 始業
朝礼をしてすぐに迎えにいきます。
待機組が清掃と電話番をしています。
9:15〜 午前の部開始
サービス開始は9:15〜ですが、9:00くらいから利用者様がデイケアに続々と到着されます。
このとき、利用者様の到着が集中すると少しバタバタしています。
到着した方からバイタルチェックとドリンクサービスをします。
9:30〜 リハビリ開始
9:30くらいから理学療法士と作業療法士は個別リハビリを開始します。
1人当たり20分〜25分程度で行っています。
空いた時間に情報収集や利用者様とコミュニケーションを図ったりしています。
11:15 午前の部終了
午前の部が終了して利用者を自宅まで送迎車で送ります。
12:00〜 休憩
12時から1時間の休憩に入ります。日によりますが、12時前に午前の業務が終わって少しまったりしていることもあります。
13:00〜 午後の部迎え
13:00から午後の業務が開始と同時に午後の部の迎えに行きます。
14:00〜 午後の部開始
14:00から午後の部のサービス開始です。基本的に午前の部と流れが同じです。
14:15〜 リハビリ開始
14:15くらいから理学療法士・作業療法士は個別リハビリを始めます。
16:00 午後の部終了
16:00に午後の部サービス終了となり、ご自宅まで送ります。
残り組で清掃を終わらせています。
17:00 書類業務など
利用者様の送りから戻ってくるとカルテ記載や計画書作成などの書類業務や送迎ルートの確認などを行います。
このとき、割と時間が残っていて談笑を交えて穏やかな雰囲気で業務をしている印象です。
最後にミーティングをしています。
17:15 終業
17:15に終業です。ほぼ毎日定時きっかりに帰られています。
老健理学療法士・作業療法士の楽なところ
理学療法士・作業療法士が老健で働いて楽なところを4つ紹介します。
定時きっかりで帰れる確率が高い
職場にもよりますが、老健では定時きっかりに帰宅することができる確率が高いです。
さきほど、職場のデイケアの様子を紹介しましたが、遅くまで残業することは皆無です。
例えば、自分の業務が全部終わってから情報収集やカルテ記入をしている人は多いはずです。
ぼくも最初に勤めていた急性期病院もそんな感じでした。
老健のように介護保険下のサービスは計画書などの必須書類がとても多いです。そのため、定時終了後に残って書類作成業務に追われそうです。
しかし、実際では比較的時間的な余裕があるので、ちょっとした時間に情報収集やカルテ記載をすることができます。
そのため、書類作成する量は多くても定時内で業務完遂できるみたいです。
穏やかな雰囲気の職場が多い
ぼくの職場にあるデイケアもそうですが、スタッフの人達が穏やかな性格の人が多いです。
その1つの要因にスタッフの年齢構成が挙げられます。
老健では若手よりも経験年数が長い人が多いです。
平均年齢が47.1歳であり、40歳代と50歳代で6割を占め、比較的年齢が高い層が中心となっており、約7割が配偶者をもつ。
引用:介護老人保健施設の看護職の役割・認識とやりがい感との関連|日本看護研究学会雑誌
こちらのデータは対象が看護師ですが、年齢構成比が40〜50歳だけで全体の6割を占めるそうです。
職場の年齢層が高いと自然的に職場の雰囲気も落ちてついてくると思います。
落ちついた環境で毎日働くことができれば、メンタル的にかなり楽に仕事を続けることができます。
PT・OTが少人数のことが多い
老健では1施設で働いているPT・OTが少人数のことが多いです。
種類 | PT数 | 施設数 |
総合病院 | 18,030 | 1,249 |
大学病院 | 2,668 | 196 |
小児病院 | 326 | 55 |
クリニック | 9,982 | 3,393 |
老健 | 6,364 | 2,460 |
こちらは施設の形態とそれに対する理学療法士の数と施設数です。
この数値を参考に1施設当たりで勤務している理学療法士数の平均を計算してみました。
種類 | 1施設当たりの会員数 |
総合病院 | 14.4人 |
大学病院 | 13.6人 |
小児病院 | 5.9人 |
クリニック | 2.9人 |
老健 | 2.5人 |
その結果、総合病院は1つの施設に平均14.4人もの理学療法士が働いていることになります。
すごい多いなあ
一方、老健は1施設に対して約2.5人の理学療法士が勤務しています。
大所帯になれば、職場内での人間関係のいざこざが起きやすくなります。
一方、老健のように少人数の職場であれば、人間関係の問題を抱えながら働く可能性は低くなります。
人間関係の心配をすることがなければ、仕事を楽に感じやすくなることは間違いありません。
人間関係ノーストレス
そもそも、老健で訪問リハビリ専従している方だと1日中施設外に出払っています。
そのため、職場の人とコミュニケーションを図る場面は病院勤務と比べると極端に少ないです。
利用者様と話すのは好きだけど、職場での人間関係構築が苦手という人にとって老健の訪問リハビリは精神的にとても楽な職場といえます。
勉強会が少ない
老健で働く医療職は「どんどん勉強して知識を深めよう!」という考えよりも子育て世代やプライベートもしっかり楽しみたいという考えの人が多いです。
そのため、定時で帰宅ダッシュする人がとても多いです。
老健で業務後や始業前の勉強会を積極的している職場はほとんどないと思います。
勉強会に熱心な病院だと頻繁に業務時間外に勉強会を開催したりしますが、その点老健は楽な職場といえるかもしれません。
老健理学療法士・作業療法士の大変なところ
ここからは老健の職場で大変だと思う部分を紹介します。
送迎業務が多い
デイケアの場合、利用者様の送迎業務があります。
ドライバーさんを雇っていて理学療法士・作業療法士は運転しない職場もありますが、PT・OTも送迎している職場が多い印象です。
しかも、ぼくの職場にあるデイケアのように1日2回転しているデイケアだと送迎時間が業務の大きなウエイトを占めます。
これはこれで運転が好きな人にとっては楽に感じると思いますが、ぼくだと苦に感じてしまいそうです。
書類業務が多い
2つ目は書類作成業務が多いという点です。
前述したように介護保険下のサービスでは保管しておかないとけない書類が多いです。
そのため、書類作成に時間をかけるのが大変に感じるかもしれません。
しかし、業務中に書類作成に十分な時間を充てることができます。
そのため、書類作成業務に追われて夜遅くまで残って仕事をすることは少ないので、その点は安心できます。
老健理学療法士・作業療法士は落ち着いた雰囲気で働ける
理学療法士・作業療法士にとって老健は楽な職場なのか話してきました。
- 定時で帰れる可能性が高い
- 落ち着いた雰囲気で働ける
- 半強制的な勉強会がない
- 人間関係がノーストレス
老健にはこのような特徴があり、結論としては理学療法士・作業療法士の職場として比較的楽に感じる可能性が高いといえます。
もし、今の職場が激務だったり、精神的・肉体的にしんどいのであれば、心機一転で老健の職場への移籍を検討してみてはいかがでしょうか。
今回、僕の職場の様子や老健勤務の友人情報をもとに解説しました。老健が楽な職場環境かどうかは施設によって大きく異なりますことをご承知おきください。