ヤンダアプローチとは
ヤンダアプローチとはチェコの神経学者であるヤンダ(Vlandimir Janda)が提唱した機能的アプローチのことです。
機能的アプローチでは構造的な問題ではなく、ケガや痛みを発生させている原因について深く理解することを重視しています。
機能的アプローチを行う中で重要になるのがマッスルインバランスという概念です。
ヤンダアプローチでは習慣化したマッスルインバランスが1番の問題と捉えています。
そのため、多角的な視点でマッスルインバランスの改善を図っていきます。
マッスルインバランスの概要
マッスルインバランスは直訳するとこうなります。
マッスル=筋肉
イン=〜ではない
バランス
▶︎筋肉のバランスが乱れている状態
マッスルインバランスは本来お互いにバランスをとりあっている筋肉が抑制と緊張バランスが乱れた状態のことをいいます。
マッスルインバランスとは、疼痛、機能障害、変性などから抑制あるいは筋力低下と緊張あるいは短縮により生じる筋機能不全を指す。
引用:マッスルインバランスに対する評価と理学療法|理学療法科学
マッスルインバランスの弊害
マッスルインバランスは運動パターンの変化や組織の損傷・痛みを引き起こします。
ここで1つ重要なポイントがあります。
マッスルインバランス→組織の損傷や痛み
マッスルインバランス→運動パターンの変化
必ずしもマッスルインバランスが必ず起点となるわけではありません。
組織の損傷や痛み→マッスルインバランス
運動パターンの変化→マッスルインバランス
このように、組織の損傷や痛みがあることで二次的にマッスルインバランスを引き起こすこともあります。
つまり、不可逆的というこです。
マッスルインバランスができあがると徐々に負のスパイラルに入り込んでしまいます。
その概要図がこちらです。
ざっくりいうと、マッスルインバランスの状態で偏った体の使い方や姿勢を続けていると脳がそれをあたかも新しい正常プログラムと認識します。その誤った運動プログラムが定着して繰り返し一部分に負荷がかかる生活をしていると、のちに痛みや炎症につながってしまうというスパイラルです。
マッスルインバランスの修正方法
ヤンダアプローチではさきほどのマッスルインバランスで生まれる負のスパイラルが脱出して忘れてしまっている正常な運動プログラムを取り戻すということを目指していきます。
簡単な具体例としては筋肉のバランス調整が挙げられます。
・過度に緊張している筋肉→ストレッチ
・過度に弱化している筋肉→トレーニング
マッスルインバランスでは、緊張した筋をリラクゼーションやストレッチすることにより、筋の粘弾特性を改善させるとともに、緊張や短縮した筋と関連がある筋の抑制や筋力低下を改善させることが重要としている。
引用:マッスルインバランスに対する評価と理学療法|理学療法科学
このようにそれぞれの筋肉に対して適切な刺激を与えて筋肉間のバランスを整えていきます。
ただ、ヤンダアプローチでは筋肉に対する介入だけでは不十分だと考えられています。
なぜなら、筋肉のバランスは中枢神経と末梢神経によってコントロールすされているからです。
そのため、ヤンダアプローチでは筋肉のストレッチやトレーニングで調整するだけでなく、中枢神経・末梢神経への介入も行っていきます。
ヤンダアプローチの実際
- マッスルインバランスの概要
姿勢・関節安定化に関わる神経筋メカニズム
関節連鎖・筋連鎖
マッスルインバランスの分類など - マッスルインバランスの機能評価
姿勢・バランス・歩行分析方法
運動パターン評価
ヤンダ式筋長テスト
トリガーポイント評価 - マッスルインバランスに対する介入方法
末梢構造の正常化
マッスルバランスの改善
感覚運動トレーニング - 臨床症候群(ケーススタディー)
初見の方はどれも目からウロコの内容が多いと思います。
その中でもヤンダアプローチが秀逸な点はその評価システムではないでしょうか。
- 姿勢分析
- 運動パターン評価
- ヤンダ式筋長検査
このあたりは理学療法評価の引き出しを増やしたい方にもってこいの内容です。
ヤンダアプローチを学んでよかった3つのこと
ぼくがヤンダアプローチを学んで「よかったなあ」と感じたことを3つ紹介します。
臨床推論が浮かびやすくなる
1つ目は臨床推論が頭の中に湧き出てくるようになるということです。
ヤンダアプローチでは症状の原因となっている機能的な問題点を様々な評価システムを使ってあぶり出していきます。
そのため、どんどん頭の中で
「これをみて次はこれをチェックして・・・」
というのが浮かんできます。
ミスユースの原因を探すときにどんな理学療法評価をしていけばいいかわからないという方は多いと思います。
ヤンダアプローチを学ぶと順序立てて理学療法評価を組み立てていくことができるようになります。
また、ヤンダの筋分類では硬くなりやすい筋肉と弱くなりやすい筋肉をパターン的に把握できます。
ヤンダの筋分類の一例はこちらです。
緊張性筋群 | 相同性筋群 |
後頭下筋 | 僧帽筋中・下部 |
僧帽筋上部 | 前鋸筋 |
肩甲挙筋 | 頸部深層屈筋 |
梨状筋 | 大殿筋 |
大腿直筋 | 内側広筋 |
大腿筋張筋 | 前脛骨筋 |
緊張性筋群が硬くなりやすい筋肉で相同性筋群が弱化しやすい筋肉です。
この筋分類は臨床的にみても合致することが多くて知っているか知らないかの差は大きいと思います。
このような筋分類を把握していることで、臨床推論をするときにある程度精度の高い見立てを立てた状態で理学療法評価をすることができます。
その結果、的外れな臨床推論になることも少なくなり、質の高い理学療法を提供できるようになります。
臨床が楽しくなる
ヤンダアプローチのメリット2つ目は臨床が楽しくなるという点です。
ヤンダアプローチの内容は実際に使ってみると、スバリ当てはまることがとても多いです。
さきほどのヤンダの筋分類だけではなく、患者さんの生活特性や専門競技によっておちりやすい動作パターンやマッスルインバランスについても豊富に紹介されています。
例えば、インドアトラックのランナーは股関節内旋筋と股関節外転筋の間にマッスルインバランスが生じやすいという紹介があるのですが、実際にインドアトラックランナーの評価をするとその通りのコンディショニングになっているということがあります。
そのため、ヤンダアプローチに則って理学療法評価をしていくと
「やっぱりこの筋肉が硬くなっている!」
「ヤンダの筋分類とおりに筋肉のバランスが乱れてるな!」
「サッカー選手は◯◯の筋肉が硬くなりやすいと書いてあったけどその通りだ」
ということがよくあります。
見立てを立てて評価をした結果、その通りだと臨床が楽しくなります。
なぞなぞの答え合わせをしたらポンポン正解していると気持ちがいいですよね?
それと似たような感覚です。
ただ、臨床的に100%合致するわけではないので、その点は注意しましょう。
マッスルインバランスのパターンを把握できる
ヤンダアプローチでは筋分類だけなく、マッスルインバランスもパターン化するといわれています。
- 上位交差性症候群
- 下位交差性症候群
- 層状症候群
その一つである上位交差症候群を簡単に紹介します。
マッスルインバランスはこのようにクロスして起こるといわれています。
- 僧帽筋上部
肩甲骨挙筋
後頭下筋群 - 胸筋群
- 頸部屈筋群
- 菱形筋群
僧帽筋下部
このようなマッスルインバランスを呈している人はとても多いです。
この特徴を把握していると、理学療法評価の時間短縮になって実際に当てはまっていれば強い筋群にはストレッチ、弱い筋群にはトレーニングという治療展開もスムーズにできるようになります。
ヤンダアプローチをおすすめしたい人
どんな人にヤンダアプローチがおすすめかについて紹介します。
理学療法評価に悩んでいる
ヤンダアプローチのメリットのところで話したようにヤンダアプローチを学ぶと理学療法評価の引き出しが増えて組み立て方も理解できます。
どんな評価をすれば課題を抽出できるかわからないなあ
こんな方はヤンダアプローチの評価システムをぜひ習得してください。
どの患者さんにも対応できるようになりたい
引き出しが増えることでどんな患者さんがきても慌てずに運動機能の分析・評価をすることが可能になります。
そのため、どんな患者さんを担当することになってもあわてることなく、適切な理学療法評価→介入アプローチという流れを構築することが容易になります。
新患がきたときにフリーズしてしまう
こんな方にヤンダアプローチはおすすめです。
ヤンダアプローチを初めて知った人
身も蓋もないことがいいますが、ヤンダアプローチを学んだことがない方全員におすすめしたいです。
運動器分野だけでなく、どの領域でもヤンダアプローチの内容は臨床的に利用価値が高いです。
臨床能力をアップさせたい全理学療法士さんに勧める良書でいえます。
ヤンダアプローチは汎用性が高い
ヤンダアプローチはどの領域でも使えるとても有益なシステムです。
ぼくは職場の先輩に勧められて勉強をはじめましたが、体系的な評価システムと介入プログラム構築方法にどっぷりハマりました。
人間が陥りやすいマッスルインバランスや悪い姿勢などをパターン化して理解できるのも秀逸な点です。ヤンダアプローチに基づいて理学療法介入を進めていくと日々の臨床を楽しくまたより質の高いリハビリテーションを提供できるようになるので、興味ある方はぜひ読んでみてください。